2006年10月21日

cut 102106

「ちょっと夢見が多いんですけれども、たぶん今週は仕事が山だったんで」

言葉を選ぶことなく、素直に状況説明ができている土曜日。

「来週いっぱいくらいは様子をみようかと思ってます」

1分にも満たない診療。いつもの薬をカバンに放り込み、ペダルを踏む。

快晴。家を出るときに降り注いでいた並木の葉擦れはすっかり乾いた音に変わり、車輪に刻まれていく落ち葉の音も間断なく細かくなっていた。道と時間が続く土曜日はまだ半分を終えたばかり。車の流れに後押しされるようにしてどこかへと向かう。

しばらく走る国道。やがて外れ、刈り取りを終えてのわずかな緑を取り戻した田の中へ。青を切る電線もなく、広いと表現するにふさわしい空の下、どこまでも自分が中央線上にいる農道にて足を休める。

空を泳ぐ小さな点。そこに流れているのだろう風をさばきながら、地上の住人には小さくとしか見えようのない円を描いている。途中で仕入れた缶コーヒーを開け、円を描く主をしばし仰ぐ。ハンドルに腕を預け、道の終わる先のさらにその先で空 (くう) を読む優雅な姿に見とれる。頭の中には何もなく、ただそれを見上げているだけ。時折、喉を潤すコーヒー味の安い飲み物。

視線を地上へと降ろしたその隙間。円に飽きた主は海に向かおうと迷いのない直線を引いていく。遙か遙か。この自転車でもきっとたどり着けるわずかな遙か。さらに小さな点になろうとするそれを見届けるのもしのびなく、早く行ってくれと再び目を背ける。 3 秒。願いは届き、点は消えた。飲み干したはずのそれをもう一度口に当て大きく首を傾ける、上へ上へ、背後に浮かぶ雲をも惜しむように、またそれが現れてくれることをどこかに望みながら、視界一面を空で塗りつぶすように。

ref.
ロビンソン / スピッツ (1995)