少しだけ残っていた湿気を北へ北へと運んでいく風。午前十時。もたもたと軽い朝食を摂り、散りかけの花を求めようと犬を自転車のかごに詰める。表情に欠ける河川敷と、突然現れる桜堤。端から端へ五分も必要としないアーチの下。ようやく陽気を伝えはじめた光に、花よりも鳥が狂う。植え込みの向こうを時折走り抜ける車の音と、止むことのない囀り。止まらない足。無人のテニスコートと敷き詰められた花。止まれない足。車椅子を押す老婆と車椅子で呆ける翁人。一瞬だけの花吹雪。剥がせども剥がせどもシャツに張りつく花弁。手を引く犬。早くこのアーチを抜け、四月のねじれから目を逸らせ。桜色の腕時計が狂い咲いてしまわぬうちに、土に縫いつけられてしまわぬうちに、五月のスペルを忘れてしまわぬうちに早く。