8日から15日までの間、何をやってたんだっけ?
と記憶を辿って部屋を見回すと、何やら見憶えのある MD が。ラベルには 「とにかく演歌」 と書いてある。おぉ、そういえば、とにかく演歌歌謡曲 (以下「演歌」) なディスクを作ったんだっけか。我が家にはゆうせん放送が引かれているので、週末の 6 時間連続番組を DAT に流し録りして、そこから 80 年代を中心に、超メジャーな演歌だけをピックアップして 3 枚の MD に収録。
演歌のヒット曲なんて山のようにあって、入れ込み度もそれまた人それぞれ激しいものがありましょう。生活と演歌。生活がワンパターンだと嘆いているあなたも、演歌を 30 曲くらい聴けば、自分以上にワンパターンの世界があると開眼すること間違いなし。滋養強壮に演歌。
過去の遺産だけで食っていける、素晴らしい演歌の世界。今月の 「1010」 誌でインタビューされていた氷川きよしだって、デビュー曲 「箱根八里の半次郎」 だけでもう一生安泰確定。まだまだ 20 代前半でお若いのに。一山当てちゃったのね。でも演歌には 「一発屋」 という言葉はないので安心してね。歌手名よりも曲名が先に想像されるようになれば、それはそれで一流の証拠なんだから。 「帰ってこいよ」 のように。
「1010」 って? 東京都公衆浴場業環境衛生同業組合が無料で配っている月刊パンフレット。銭湯専門誌みたいな。
先にレシピを。ディスク順、曲順不同、アーティスト名省略。
雪國、みちのくひとり旅、帰ってこいよ、ブランデーグラス、北酒場、氷雨、さざんかの宿、浪花恋しぐれ、男と女のラブゲーム、夢芝居、冬のリヴィエラ、娘よ、お久しぶりね、釜山港へ帰れ、つぐない、俺東京さ行ぐだ、夫婦坂、矢切の渡し、命くれない、無錫旅情、北の旅人、時の流れに身を任せ、雪椿、想い出迷子、酒よ、天城越え、ラヴ・イズ・オーヴァー、浪花節だよ人生は、もしかしてPart2、男と女のはしご酒、祝い船、熱き心に、あばれ太鼓、人生いろいろ、男船、津軽恋女、愛人、大阪しぐれ、哀しみ本線日本海、雨の慕情、望郷酒場、兄弟船、望郷じょんから、津軽海峡・冬景色、川の流れのように
僕の友人は 「知らない曲が 7 曲もある」 とコメントしてましたが、こんなにメジャーな選曲では 「女ののど自慢」 にだって出られやしない。年代的に行くと、 20 代半ば以上の方々なら一度は耳にしたことがあるだろう曲の猛ラッシュで、本家 「のど自慢」 向けラインナップ。演歌ってレコード会社間の垣根がメチャクチャ高くて、なかなかレーベルを超えたコンピレーションが発売されないのが本当に残念。需要はあると思うんだけどな。夕刊の番組欄下半分に、よくでかでかと広告があるでしょ。 「往年のヒット曲をお茶の間に」 的なボックスのように。
で。
今回集めた曲の中で、最もセールスが低いのはおそらく 「津軽恋女」 。新沼謙治が 87 年にリリースしたシングル。オリコン最高位 80 位代。約 2 万枚。低い順位の割には、随分とテレビで耳にした印象があるんだが。僕は好き、津軽系。演歌は対象としているマーケットに限界があるのだから、その小さなマーケットに浸透さえすればいい。セールスという絶対的な数字からすると大したことが無さそうだけど、購買層比較で相対的に見た場合、売上げが 5 桁に達すれば充分なヒットなんだろう。もちろん 6 桁、 7 桁に達する楽曲が今でも時折生まれ、 90 年代に突入すると同時に、演歌にとっての 「ヒット」 が 6 桁から 5 桁に落ちたという事実がある以上、マーケット云々の前述のくだりは、穴だらけの擁護論なんだろうけどさ。
色んな発見。
昔から言われていることではあるけれども、演歌は本当にラテン好き。石原裕次郎最後のヒット曲とも言える 「北の旅人」 では、 B メロからボンゴがポコポコ鳴ってる。他でもボンコ・コンガは頻出。漁師系演歌 (「○○船」 の類) のイントロで多い 「っかーっ!」 という音。しょぼい擬音語で申し訳ないが、あのビブラスラップなんて、日本の音楽市場上、演歌以外の何に使うと言うんだ。波を現わしているんでしょう。松竹だっけ、東映だっけ? 映画の最初に流れる映像で、波がざっぱーん、とくだける映像。あんな感じ。 「あばれ太鼓」 でもイントロで 3 発鳴ってますね。
拍子木代わりにクラベスを使っている例もあり。 「もしかして Part2」 なんて、のっけからティンバレス。カウベルも鳴りまくり。
「矢切の渡し」 にはスネアドラムが用いられていない。スネア (の音色) を使わなかったヒット曲って TM NETWORK の 「Get Wild」 くらいしか思い浮かばないが、他に何かあったっけ?
「俺東京さ行ぐだ」 の A メロのベースなんて、ベーシストがニヤニヤしながら歌っちゃってますよ。すごい。 「夢芝居」 「天城越え」 に見られるような、スケールの大きさで聴かせる演歌はベースラインが凝りに凝ってる。首をカクカク言わせながら、右の指が弾くぜ弦を、左の指が滑るぜ弦を。自分の世界に入り込んでるベースマンの職人芸。そんじょそこらにゴロゴロ転がってる、ワンコーラス目にもツーコーラス目にも、全く同じルート音しか弾けないへなちょこベーシストは 3 年くらい弟子入りすべし。演歌はベースラインを聴いているだけでも何かと興味深い。
「浪花恋しぐれ」 はイントロから A メロにかけてドラムレス。というか B メロとサビ、そしてキメの部分でしかドラムが聞こえてこない。
「釜山港へ帰れ」 なんてチョッパー & テクノ & ラテン & タンゴ。やっぱアジアはごった煮文化なんだな。
おや? チョー・ヨンピルって、今なにをしているんだろう? 韓国でプロデュース業かな。その昔、橋幸夫がアイドルグループ 「セイントフォー」 をプロデュースしたように。ん、橋幸夫じゃなかったっけ?
「ラブ・イズ・オーヴァー」 はぜひとも、今沢山いる女性 R&B 系とやらに競作カバーさせてください。 KIRIN の缶コーヒー 「FIRE」 の企画 CD のように。スティービー・ワンダーといえば、確かに世界的に見れば有名人だろう。でも日本で欧陽菲菲の曲を歌える人口と、スティービー・ワンダーを歌える人口を比較したらどうだろうか。ということで、今だからこそ欧陽菲菲。絶対に売れます。当たりますってば。誰が買わなくても僕は買う。今、凋落著しい演歌界の活性剤として、これほどふさわしい存在はない。和田アキ子ではなくあえて 「欧陽菲菲トリビュート」 。この曲のメロディラインが作る歌い上げ、盛り上げ方は、絶対彼女らに向いているから。競作だなんてしばらく聞かない言葉だ。ちなみに今回の MD に入っている 「氷雨」 は佳山明夫と日野美歌バージョンの両方ご用意してございます。
そうか、ポルノグラフィティの 「サウダージ」 に妙な懐かしさを感じたのは、ボーカルだ、ボーカル! 「サウダージ」 の 「さびしい」 というワンフレーズに、妙に感情が入っている部分があるでしょ。あれは、まさに演歌に必要な演技。独りで合点。
大泉逸郎の 「孫」 のヒットを苦々しく思っているのは、この曲がヒットした当時にパクり騒動を起こした誰だかさんではなくて、 「祝い船」 の門脇陸男なんじゃないだろうか。かたや山形のさくらんぼ農家出身、かたや宮城交通のバス運転手出身。いい対比だと思うんだけれどもな。
それにしても、石原裕次郎は本当にいい声だな。 「洋酒」 って言葉が似合うよなぁ。なんてったって 「ブランデー・グラス」 だし。男のロマンっての? ダンディズム? 天知茂も逝き、石原裕次郎も逝き、ニヒルな中年男がいなくなったよなぁ。
ふぅ。ここまで読んだの?
このシリーズ、 vol.10 くらいまで作れないものだろうか。 「奥飛騨慕情」 とか 「3年目の浮気」 とか 「別れても好きな人」 とか。カラオケに欠かせない曲がまだまだ全然足りない。それでカーステレオに MD チェンジャーを搭載。全部演歌ディスク。演歌のヒット曲しか流れない MD システム。演歌世代に MP3 は似合わない。あるべき姿はカセットテープなんだろうけど。