ウィンドウサイズを変えるかのように暫定的に減らされた 1 時間の睡眠。単純な作業は単純なループにはまり込み、ついて出た独白とともに紙を放り投げては、流れていた曲のせいにして失笑を買うとともに気分を入れ替える。
電車か車か。時折、眼鏡に振り降りる雨粒と、湿気を帯びるに従ってくねる髪が地下鉄を選ぶ。東京南回り、城東発城西行。ネジ工場と卸問屋が並ぶ街から、ビルと人が流れる街までわずか 30 分。早々に本を閉じ、音で耳をふさぎ込む。それでも誘われてしまった眠気を振り払い、傘を片手に渋谷の地下から這って出る。
地下直結のオレンジ色したレコード屋に在庫なし、さようなら。徒歩一分、ピンク色のレコードショップにも未入荷。店員が指し示したコーナーには、首からぶら下がっているものと同じ CD が何枚も並ぶ。こちらの顔は既にあきらめ。
スクランブル。堰き止められた人垣が信号にプレッシャーをかける。直進する足の隙間を縫って斜めに渡る。シャツの下に流れる汗。雨は落ちる直前で待ち受けている。手をふさぐ傘が重い、重心をずらすバッグがうざい、何よりも人が多い。見飽きるビル街、見慣れない人並み。
黄色い CD ショップ。人並みはここにまで続き、ため息と舌打ちを繰り返せば汗粒がシャツの下を再びつたう。並べられたパッケージと差別のないポップに酔い、立ち止まる客のペースに酔う。自分も客。目当ての CD と予想外の CD を順に見つけ、汗の報いと満足の至りとともにレジへ。並ぶ客、並ぶ店員。ここは渋谷のレコードショップ。レコード顔の店員が次から次へと店員をさばく。アイドルの CD を手にした客、子連れの客、そしてそれを疲れとともに眺める自分。バッグにそれをしまい込むと、駅を出てからわずかに 30 分。店先には空を仰ぎため息をつく人が群れる。道に沿って流れる風も蒸れる。店頭キャンペーンの兄ちゃんはお遊戯の鈴を鳴らして人の気を引こうと躍起。差す意味もさしてない傘を開き、足許をすくうような歩道で一歩一歩を確かめるように歩く。いくら踏みしめても滑る足。傘の先は凶器。人は器用にこれを避け、坂を上っていく。渋谷は水渋る谷地。どこへ行こうとも坂。坂の下に潜り込む階段。まだまだ降りる。改札口に張り出された殺人事件の被害者写真は渋谷の顔。時間調整、停車中の電車に難なく乗り込むと、暴発し尽くした髪の毛が車窓に浮かぶ。駅三つ。
紫色のラインから再び東京南回り。乗り換えの缶コーヒーは駅に置き捨て、座席でバッグを開く。ブルーのプレイヤーにセットする CD 。両隣の会社員、顔色をうかがいながら音漏れ寸前まで上げるボリューム。カーブの連続で軋む車輪、その高周波すらも覆い隠すノイズ。列車到着。エレベーターはすぐに満員。左に見えるアップステアは階段。ホームを断ち切る柱に寄りかかる。 B3、 B2、 B1。また訪れる箱を待つ。 B1、 B2、 B3。初老の女性は B2。リズムにまかせるまま、B1 までの独壇場。背中にあった鏡を見ると正体不明な人間が一人。挙動も不明。到着のチャイムが鳴る。改札は人が行き交い、耳の中では未知の音が飛び回る。路上に放置されたままの車に向かい、通路を歩く。