木村大の時と同じく M 氏の誘いでこんなものを見に行く。しかもご招待券。まともに金を払うと 12,000 円。
自分が利用している路線沿線にある明治座。観劇帰りのおばさま方が、お土産を詰めた紙袋をぶらさげて電車に乗り込む光景を何度も目にしたことはあれども、建物の中に入ってみたのは初めて。
渋いっす。とにかく会場は渋い。入っているテナントも、初老年齢層向けの栄養食品やら、衣類やら、小物やら、そしてアーティスト物販の量の凄さといったら! 扇子ハンカチ湯飲み食い物エトセトラ。僕らのような若者 (相対的に見て確実に若者) の、しかも男二人組はよほど珍しいとみえ、店員さんから結構声をかけられていた気がする。そういや、煎餅もらったな。 「若者」 じゃなくって、 「子ども」 扱いともいえる。
さて。座長公演なので、ちょっとした演劇とコンサートとの二部構成。演劇に関しては、まぁ、なんといいましょうか。豪勢でした。はい。若林豪、綿引勝彦、倉田てつを、国広富之というテレビで見るそうそうたる顔ぶれが、前から 5 列目という特等席で楽しめるというゴージャスさ。観客はやはりご年輩の方々が多く、かつ、吉田兄弟の時のようなマナーの悪いババァ、もとい、ご婦人はいらっしゃらなかったのでこれまた満足。隣に座っていた方にミカンを頂いちゃったし。
でも、みんな、結構いい物をお召しになっていらっしゃいましたことよ。メガネ一つとっても、一体私の給金の何ヶ月分するのかしらん。
さて、第一部。物語はありがちなお約束時代劇風エンタテインメント。舞台の使い方が面白く、かつての 「8 時だヨ! 全員集合」 を観ているかのごとく。回転式のひな壇の上にセットが組まれ、使う面によってステージの空間を膨らますわけですか。ふむ。
徹底的に 「お約束」 なので、これは役者の顔で見せるしかないわけだ。テレビの時代劇が舞台で演じられているだけの話でもあるわけだから、顔ぶれもそれなりでない限り、観衆だって飽きちゃうんじゃないかと。事実、かく言う自分も、坂本冬美の一挙一動というよりは、綿引勝彦と若林豪の存在感に感動していた口だし。 「G メン '75」 の再放送を見て育った子どもっすから、若林豪ってのは、そりゃぁもう。
第一部と第二部の間には一時間ほどの休憩時間があった記憶。劇が始まる前に予約していた弁当を食べる客。自分たちも食べる。結構いいところの食堂が作ってるんじゃないっすか。美味かった。
で、お腹も満たされたところで待ってましたの坂本冬美オンステージ。一ヶ月間の座長公演をすると体重が 3kg 落ちるそうで。そりゃそうでしょう。一日二回の公演が一ヶ月間。歌うだけならまだしも、大立ち回りありの舞台までこなさなきゃいけないわけだから。そのような中、プロの仕事というのは本当に徹底して完璧にこなされていくわけだ。
プロである以上、金を払っている客の目的の何たるかを理解した上で、元を取らせて家に帰ってもらわなきゃいけないわけだ。体調不良だろうが疲労だろうがなんだろうが、そんなものは言い訳以外の何物でもなく、その場その時にいた客からすれば、そこでの公演が全てなのだし。生っちょろいミュージシャンに対して 「下手だけど好感が持てた」 とか 「演奏がイマイチだったのは愛嬌としても」 と言っているようじゃ、確かにジャリタレで終わるわな。それはそれでまぁよしとして。
でも演歌というマーケットが息も絶え絶えなのも事実。実際、それなりにチャートインしているように見えている曲も、ほとんどがファンクラブに入るような熱狂的ファンによって売られているもの。初登場 1 位で三週後にはトップ 20 からも消えているようなアーティストと何も変わりませんがな。新しい顔、局面を継続して見せていかんことには、マンネリに陥った挙げ句に這い上がることもなく、ダラダラと NHK の歌番組で糊口をしのぐしかなくなってくるというか…うむー。そうすると、坂本冬美ってよく 「作ってきた」 歌手だと思うしかない。
歌うまいし、喋りも楽しいし、なんつったって綺麗で溌剌としてるし!
一アーティストとしての清潔感を持ち続けるってことは、生半可なことじゃなかろうて。でも健康的なだけじゃない。 「火の国の女」 でゾクゾクきたし。坂本冬美さまになら抱かれてもよいと思わせてしまう、その場限りのプロの仕事。むしろ抱いてください。惚れた。
「夜桜お七」 とかいいっすねぇ。 「コブシを回す」 行為そのものを演歌における一つの技法とするならば、それを用いるための素材、すなわち楽曲はどんなものであっても、この技術が適用されるにあたっては完全に演歌になってしまうわけだな。和集合演算における演歌の強さ。それだけ演歌は毒性が強いともいえるのね。
さて。通路際の席だと言うことを事前に知っていたので、客席には降りて来た際には握手をするしかないと思っていたのだが、それは叶わず。代わりに、舞台の上手から下手へと手を振りながら移動する冬美さまに、思わず大きく手を振ってしまいましたことよ。振り返してもらいましたことよ。
「凛として」 もいい曲だねぇ。テレビで初めて聴いた時にはぴんと来なかったけれども、生で見たら惚れた。というか、こんなに惚れっぽくていいのか、俺。