
『UNPLUGGED SHOW '03』と銘打たれた鬼束ちひろのホールツアー。サントリーホールでの演奏というものを一度は聴いてみたかったことと、鬼束ちひろのライブそのものも見てみたかったので、足を運んでみることにした。
プログラムは前後半の二部構成で、前半は9人編成のストリングスのみ、後半はこれにギター、ピアノ、パーカッションなどが加わる内容となっていた。
ストリングスに聴くことのできる音の粘性は、さすがはサントリーホールだと思わせる深みと残響で、楽器の音を聴かせてくれるスペシャルなホールなのだと実感させられた。
プログラムの中身も、鬼束の声はライブであっても CD で聴けるだけの安定性と情感を表現することができるのだと実感させられた。ストリングスをバックにして歌うのは、なかなか音程が取りづらいらしいのだが、ポップスの歌手としてはブレの目立たないボーカルを聴かせてくれた。
特に前半は、リラックスした上で導かれる眠りと、音を追う耳という現との境にある自分を楽しむことができ、自分が鬼束に抱いているイメージである、母なる安心感のようなものを十分に堪能することができた。前々から、鬼束ちひろには中島みゆきから年齢なりのドスを差し引いたものがあると感じていたのだが、CD においても中島みゆきのような大仕掛けなアレンジを用いない分だけ、鬼束は若いなりにもゆとりが生じているのだろう。 10 年後に至るまでの変化が楽しみだ。
問題は PA と生音の絡みだった。聴いていた席は、ステージ向かって左側、 LD ブロックの最前列だったのだが、コントラバスが入らないとボーカルが不格好に浮き、一方でコントラバスが入ると声が埋もれてしまうバランスの悪さが終始気になった。
おそらくこれは残響時間と音の回り方の問題で、ストリングスと声とを両立させて生かすことを考えると、渋谷公会堂といった残響音の短いホールでもよかったのではないかとも思える。
また、プログラムを練る時間がなかったのか、アンサンブルが時折崩れてしまうというコミュニケーション不足が感じられ、この点が非常に残念だった。パーカッションにも、曲を盛り上げる効果以外での耳障りなアタックがあり、曲への集中を削がれることが何度かあった。このあたり、クラシックとポップスとの折り合いをつけるポイントが見出しにくかったのだろうかという疑問もある。
ともあれ、機会があれば純クラシックプログラムをここで味わってみたいのと、鬼束ちひろ自身の通常のライブを、リベンジがてら楽しんでみたいものだと思わせるには十分な濃い、かつ実験的な内容だった。
セットリスト(2003.08.19. サントリーホール 開演19:00)
<第一部>
1. Opening (Sceneより「絡まった糸」)
2. 月光
3. BORDERLINE
4. Castle・Imitation
5. 眩暈
6. 流星群
<第二部>
7. Interlude 1 (Sceneより「infection-viola-」「infection-piano-」)
8. Interlude 2 (Sceneより「氷点」)
9. call
10. シャイン
11. 漂流の羽根
12. BACK DOOR
13. infection
14. 嵐ヶ丘
15. CROW
<アンコール>
E1. Beautiful Fighter
E2. Take Me Home Country Roads
E3. Sign