chouchou / 上白石萌音 (2016 ハイレゾ 96/24)

何と凛とした声質なのだろうか。

それが上白石萌音の作品『chouchou』を聴く度に抱く印象である。どれだけ力強く歌おうが、儚く歌おうが、一本の芯はぶれることを知らない。ぱっと聴くと甘いボーカルにも思えるが、じっくり聴き込むと実の所はどこかハスキーで、喉に空気の通る様子が見えてくるほど。声の使い分け方も実に豊かなグラデーションを描いており、女優ならではともいえるアクトレスぶりが、歌を演じることにもつながっている。

それが顕著なのがアカペラで歌われる「On My Own」である。ボーカル一本だけで戦えることを見事に証明してみせている。語りかけるように囁くシーンから、朗々と歌い上げるシーンまで、わずか3分36秒の間に、上白石萌音が持つ声の魅力の全てが凝縮されており、愛する人を歌う姿が聞き手の心をわしづかみにする。

そしてそこから流れ込む「なんでもないや(movie ver.)」が、これまた出色の美しさを誇る。

言わずと知れたアニメ『君の名は。』のエンディングテーマのカバーであるが、オリジナルを歌うRADWIMPSの野田洋次郎のそれが、少年と青年の狭間を揺れ動く男性の視点で歌われたものであるならば、上白石萌音のそれは、完全に少女特有の夢と特定の「人」への想いを込めて歌われたものである。

「もう少しだけでいい」と囁いているのは、目の前にいる誰かに対する届かない想いであり、「君のいない世界など」と力を込めて歌い上げる姿は、恋への熱情を持った少女の確固たる宣誓でもある。凛として揺らぐことのない少女の強さ、体温の高さを完全に演じきっているのだ。この体温の高さこそが、この曲の真の魅力なのだと説く伝道師のようなカバーに仕上がっている。

このアルバムが魅力的であるポイントは、上白石萌音の声だけではない。アコースティックの生音主体のトラックで作られていることと、かつ、6曲26分という短さに全てを詰め込んだプロデュースサイドの手法から、アルバム作りへの並々ならぬ意気込みが伝わってくる。上白石萌音というアクトレスの歌声をいかにして魅力的なものとして伝えるか。これらのポイントからも、その一点だけに注力して仕上げられた作品だと受け止めることが出来る。

そして、本作はハイレゾ音源で聴いてこそ、その本来の魅力が伝わる逸品だと強く感じている。ボーカル、トラックとも、商業的成功をにらんだ邦楽ポップスとしては、ある意味採算度外視的に高品位な録音が行われており、ハイレゾ音源だからこそ可能になる、「表現力の表現」に成功している。

上白石萌音が持つ声そのものの魅力を引き出すための録音と、そしてその録音に一歩も負けることのない主役のボーカルとのケミストリーが生み出した、実に奇跡的な作品が本作である。自分にとっては2016年最大の収穫であったことも、最後に付け足しておきたい。

e-onkyo ⇒ chouchou (96/24)

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