詠む音楽

雨を追い越して

the autumn stone (1999)

窓に遮られて届かなかった雨の音。クーラーはその役目をさぼり、二人分の熱に沈んでいるかのような床から静かに起きあがる。水たまりは小さく、ぽつりと浮かぶ点も小さい。何かに引き留められた午睡に、少しだけ頭が重い。

そっとしゃがみ込み、まだ横になっているキャミソールの肩に手を当てる。うっすらと浮かんだ汗が手に吸いこまれ、親指を滑らせようとしたところに、自分の姿が映る瞳があった。

「少し、出ようか」

先にスニーカーを履き、玄関先で眼下に広がる屋根を眺める。暗くとも薄く伸びる雲。思っているよりも遠くにあるはずの空に、光が穴を開けて待っている。肌に当たる水滴はない。ノブが引き下ろされる音に目もやらず、階段に向かって歩き出した。

黄金色を帯び始めた光は斜めに影を作り、いつまでもおとぎ話を読み続けることはできないと告げる。足元に影の頭があり、時折振り返ってうかがう目の中に、自分が映る回数は少なかった。

信号は赤。上り行きの車が多い三車線の国道。時間を無視することは誰にもできず、誰もが戻るべき所を作って戻ろうとしている。わがままにねじ曲げた時間への言い訳がわりに、ようやく並んだ肩に手を回した。拒まなかった肌の汗はとうに引き、脂になった冷たさだけが厚く張りついた。

ただため息一つ、見上げるといつの間にか空は開け、張りついてしまった時間を解く言葉を探そうとして、もう一つため息を重ねた。