詠む音楽

無罪モラトリアム

椎名林檎 (1999)

わかったような顔をしてあなたは
銀色したスプーンでわたしをすくいとってた
たしかに銀だと思ってたの
ほうりだされたオールを返してみたら
錆が浮いてた

おいしいなんて一度も思わなかった
だから
「もったいない」 ってそう言ったのは
わたしのためだと思ってた
味がわからなかったのは
わたしが子どもだからだって思ってた
あなたはすくいとるたびにかざしてくれたから
浮かれすぎてた

でも今だからわかる
わかることは目分量
お菓子は作れない
違いすぎてたの朝の味と昨日の味と
いつも
わたしのはかりとあなたのはかり
あなたのスプーンとわたしのスプーンは違ってたの
違いすぎてたの

あなたの言葉もたぶんもう違う
わたしのスプーンにうつさないとわたしの顔はわからない
わたしのスプーンではからないとわたしの味はわからない
あなたの錆びたスプーンですくってみてももうわたしの味じゃない